『隷属なき道』によってAIによる格差の拡大に対してBI(ベーシックインカム)の必要性を説いたオランダの歴史家ルトガー・ブレグマンの近著。とはいえ翻訳まで2年近くかかっている。原文(最低でも英語)で読まないと世界に置いて行かれるとはよく言われるが情けないことに未だに翻訳を待って読んでいる。でも2年待って読んだ甲斐があった一冊。
ホッブズやマキャベリなど近現代の社会思想は人の本質を悪とする言説が主流を占めている。それを裏付けるような心理学の実験や調査、事件の報道がなされてきた。本当にそうなのか、著者は各地でインタビューや文献を検証した結果、その多くが捏造だったり曲解されていたりしていることを明らかにしていく。
ブレグマンの言いたいことはシンプルで「ほとんどの人間の本質は、善である」。それを以て新たな社会設計をしていこうということ。
確かに身近なところでも、メディアはPVや視聴率を稼ぐためだけに惨事や不祥事を煽りがちだし、それに乗っかった匿名投稿がさらに炎上させることもしばしば恣意的に行われる。というか善事は報道されることは少ない。世知辛い世の中、どうせ何をやっても変わらないという意識を植え付けられているようだ。
ブレグマンは豊富な事例を紹介しながら、そうした冷笑をやめて参加へ、排除をやめて受容へ、利己主義をやめて連帯へといくつかの処方箋を提示している。
巻末に提示されている以下の「人生の指針とすべき10のルール」は、市民活動に取り組んでいる者を勇気づける内容だ。とはいえ題名だけ見ても??なものもあるのでぜひご一読を。
人生の指針とすべき10のルール
01.疑いを抱いた時には、最善を想定する
02.ウィン・ウィンのシナリオで考える
03.もっとたくさん質問する
04.共感を抑え、思いやりの心を育てる
05.たとえその人に同意できなくても、他人を理解するよう努める
06.他の人びとが自らを愛するように、あなたも自らを愛する
07.ニュースを避ける
08.ナチスを叩かない
09.クローゼットから出る。善行を恥じてはならない
10.現実主義になる
ご参考
○出版元のサイト。著者の動画コメントも上がっている。
○コミュニティデザイナーの山崎亮さんによる各巻ごとのコメント
○存じ上げない方だが翻訳版が出る前からあげられていた要約